こんにちは。 京都の相続専門税理士、アーム税理士法人です。
『養子がいる場合の相続税の計算』について。
亡くなられた方に養子がいる場合は、その養子は必ず相続人になります。ただし、相続税を計算するうえではその取扱いが少し異なりますので、順を追って解説していきます。
1.『養子』とは
養子とは民法の規定に基づく「養子縁組制度」によって、子供としての身分を取得した人のことを言います。この「養子縁組」の手続きを法的に行わなければ養子とはなりません。よく、『ムコ養子』という言葉を聞きますが、単に奥さん側の姓を名乗っているだけの場合もあります。婚姻をした際にどちらの姓を名乗るかは自由ですので、養子とは関係ないのです。
正しい『ムコ養子』とは、奥さん側の姓を名乗るだけでなく、奥さんの親と養子縁組の手続きを行い、法的に奥さんの親の子ども(養子)になることを言います。
この養子縁組をしているかしていないかは、相続においては相続人になるのかどうかという大きな違いがあります。養子にならずに奥さん側の姓を名乗っているだけの場合は、相続人にはなりませんので、奥さん側の親の相続の際には財産を取得する権利は一切ありません。
再婚の場合についても同じような話があります。
バツイチ子持ちの方が再婚した場合に、その子供と再婚者との間で養子縁組をするかしないかで、再婚者が亡くなられた時にその子供に相続権があるかどうかが変わります。再婚者との間で新たに生まれた子供は当然ながら相続人になりますので、養子縁組をしない子供(連れ子)と実子では同じように生活をして育っていっても、最後の最後に大きな違いが出てきます。
2.養子縁組制度
一般的に『養子』というと、「普通養子縁組制度」によって養子となった方のことを言いますが、もう1つ制度があります。それは「特別養子縁組制度」です。
両者の違いを簡単にまとめると以下のとおりです。
【普通養子縁組制度】
①養親の年齢は20歳以上(令和4年4月からは18歳以上)でなければならない。
②養子になる方は養親よりも年下でなければならない。(年下でも尊属の場合はダメ)
③婚姻している方が養親となる場合に、養子となる方が未成年の場合は、夫婦揃って養親にならなければならない。
④養子となる方が未成年である場合は、家庭裁判所の許可を得なければならない。(孫などを養子にする場合は不要)
⑤養子縁組をした後でも、実の両親との間の親子関係は消滅しない。(実の両親が亡くなられた場合の相続権も消滅しません。)
【特別養子縁組制度】
①養親となる方は、25歳以上で夫婦揃ってでなければならない。(再婚者の子を特別養子にする場合を除く。)
②養子になる方は15歳未満でなければならない。
③養子となる方の父母(実の両親)の同意がなければならない。(父母が意思表示できない場合や虐待などの特別の事情がある場合は不要)
④養子縁組をした後は、実の両親との間の親子関係は消滅する。(実の両親が亡くなられた場合の相続権も消滅する。)
3.相続税計算上の影響(メリット)
相続対策などで「孫を養子にする」というようなことが見受けられます。孫であっても養子になれば相続人となりますので、相続人の数が増えることで税金計算上のメリットがあるということになります。ではどういったメリットがあるのか?
①『基礎控除』の額が増える。
②生命保険金・退職手当金の非課税の限度額が増える。
③相続税の計算過程において、人数が増えることで子供一人あたりの法定相続分(割合)が減少するため、適用する税率が低くなる可能性がある。
※子供がいない方が養子をとることで上記①~③は逆になる(デメリットになる)可能性もあります。
上記のとおり、税金計算上の違いが出てきますので、財産規模によっては数百万円・数千万円・数億円のメリットが生じることがあります。
4.相続税計算上の制限
上記のとおり養子を増やすことで相続税上のメリットがあるなら、「養子をいっぱい増やせば相続税を0円にすることが出来るじゃん!!」って考える人が出てきますよね。こういった行き過ぎた対策を規制するために相続税のルールとして養子に一定の制限を設けています。
それが「法定相続人の数に算入する養子の数」です。
結論から申し上げると、相続人としてカウントする養子の数はMAX2人(亡くなられた方に実子がいる場合は1人)までということです。
例えば、亡くなられた方に子供が4人(実子 1人、養子 3人)いる場合、基礎控除等の計算上、相続人としてカウントできるのは実子1人・養子1人の合計2人となります
また、亡くなられた方に実子がおらず養子が4人いる場合は、基礎控除等の計算上、相続人としてカウントできるのは養子2人だけとなります。
この制度についてよくあるのが、「実子がいる場合は養子にできるのは1人だけ」と勘違いしている方が大変多いです。これは間違いです。養子にする人数に制限はありません。何人でも養子にすることはできますが、相続税の計算上は制限しますということです。
5.養子でも実子とみなす場合
相続税計算上は養子の数に制限がありますが、養子であっても制限から除外する、つまり『実子とみなす』とする規定があります。それが以下のとおりです。
①特別養子縁組によって養子となった方
②配偶者の実子(連れ子)で、亡くなられた方と普通養子縁組により養子となった方
③配偶者が婚姻前に特別養子縁組により養子としていた方で、婚姻後に普通養子縁組により養子となった方
④代襲相続により相続人となった方で亡くなられた方の直系卑属である養子(孫養子が代襲相続人になっているケースが当てはまります。)
これらの要件を満たす養子がいる場合は、養子であっても『実子』とみなしますので、相続税計算上は注意が必要です。
まとめ
相続税の対策として親族関係のない方を養子にすることは滅多にないでしょうが、子の配偶者や孫を養子にすることはよくあります。一見、節税効果があるため絶対にやるべきだと思うかもしれませんが、相続税以外のところで問題が生じることもあります。例えば、「養子となった方が強欲に権利を主張してきた結果、相続争いが生じてしまった」・「子の配偶者を養子にしたが、離婚してしまい、養子縁組の離縁をするために多大な費用が生じてしまった」などです。
養子にするということは、法律的にはその方は相続権という権利を取得することになります。当然ながら無用な争いを生む可能性が出てくることになりますので、本当に信頼できるかどうか、そのあたりを見極めることが重要で、目先の税効果だけで安易に養子を増やすことはオススメしません。
養子縁組を利用する場合は、様々な要素をしっかりと検討したうえで、慎重にご判断下さい。