こんにちは。 京都の相続専門税理士、アーム税理士法人です。
『退職手当金の課税関係』について。
会社にお勤めの方が亡くなられた場合、死亡後において遺族に対して退職金(死亡退職金)が支払われる場合があります。また、家族経営の同族会社が死亡した役員に対して退職金(死亡退職金)を支払うケースもよくあります。
この退職金の課税関係はどうなっているのでしょうか?
生前中に受け取った退職金については、一般的には『退職所得』として所得税の課税対象となります。また、近年では『企業年金』として退職金を年金で受け取る形式のものもあります。年金で受け取る場合は『雑所得(公的年金等)』として所得税の課税対象となります。
では、死亡後の受け取りについては?
順番に確認していきましょう。
1.死亡退職手当金は相続税の課税対象
タイトルのとおり、死亡後に遺族が受け取る死亡退職手当金は『相続税』の課税対象となります。
こちらは生命保険と同様に民法上の相続財産とはなりませんので、税務上は「みなし相続財産」という言い方をします。
相続税の課税対象となりますので、所得税の対象とはなりません。
では、受け取った金額すべてが相続税の対象となるかというとそうではありません。
こちらも生命保険金と同様に『非課税枠』があります。
その金額は、
『500万円 × 法定相続人の数 = 非課税額』 です。
これも生命保険金の非課税と同様の計算になります。(法定相続人の数は、相続放棄があった場合は放棄がないものとして計算した数で、養子については一定の制限により計算した数となります。)
受け取った退職手当金から上記の非課税額を差し引いた残りが相続税課税対象となります。
2.弔慰金等の取り扱い
死亡退職手当金とは別に勤務先から「弔慰金、花輪代、葬祭料(弔慰金等)」などの名目で金品を受け取ることがあります。
これらも退職手当金等として相続税の課税対象となる場合があります。
ただし、基本的には以下の部分については非課税となります。
≪業務上死亡の場合≫ 普通給与(月額)× 36か月
≪業務外死亡の場合≫ 普通給与(月額)× 6か月
ここでいう「業務」とは、被相続人に遂行すべきものとして割り当てられた仕事のことをいい、「業務上の死亡」とは、直接業務に起因する死亡又は業務と相当因果関係があると認められる死亡をいうものとされています。
なお、労災からの遺族補償給付など『特別法上の弔慰金』の受取がある場合は、上記計算が若干異なりますが、ややこしいので割愛します。
3.死亡退職手当金に該当しないもの
上記2で確認した「非課税額」の適用対象となるのは、原則として社員(又は役員)として在籍中に死亡した場合に、死亡後に遺族が受け取る退職金となります。
従って以下のようなものは相続税の対象となるものの「非課税額」の適用対象とはなりません。
①生前のうちに退職し、退職年金(企業年金)を受け取っている途中で死亡した場合に、遺族がその死亡後に受け取った退職年金の残額分
②生前中の勤務に対して支給されるべきであった給与又は賞与で、支給期が相続後であったため死亡後に遺族が受け取ったもの(これらは未収財産として民法上の相続財産に該当)
③死亡から3年を経過してから支給が確定した死亡退職金 ・・・etc
上記③については、相続税の課税対象にもならず『一時所得』として所得税の対象となります。
4.節税対策として使える小規模企業共済
『小規模企業共済』というものをご存じでしょうか?
これは小規模企業の経営者(役員)や個人事業主の方が自分の将来の退職金の為に積み立てていくもので、将来受け取る際には通常の退職金と同じような税務の取り扱いとなります。
また、毎年支払う掛金(最高 年84万円)については「小規模企業共済等掛金控除」として全額を「所得控除」することが出来ます。つまり、「支払額×(所得税率+住民税率)」の節税が毎年できることになります。
さらに受け取るときには「退職所得」として所得税の対象となりますが、計算上かなりの恩恵があります。払う時ももらう時も節税効果バッチリの非常に優れた商品なのです。
この小規模企業共済ですが、例えば中小企業の役員の方が加入した場合、死亡まで役員として会社に在籍していれば、死亡後に遺族に対して小規模企業共済金(死亡退職金)が支払われます。この場合には、通常の死亡退職金と同じように相続税の対象となります。つまり、相続税の非課税のメリットが使えるのです。中小企業の中には会社から退職金を支払えるかどうかわからないというケースもあると思います。その際には、この商品を利用して本人が自分の退職金を積み立てしていけば、支払時と死亡時の節税効果を享受できます。
生命保険金の非課税枠とともに小規模企業共済の利用による退職金の非課税枠の活用を検討されてはいかがでしょうか。
(注)死亡退職金として受け取るには、死亡まで会社に在籍(役員として)又は個人事業を継続しておく必要があります。また、加入資格がいくつかありますので、検討する際はご自身が加入資格を満たすかどうかをご確認下さい。
まとめ
会社の経営者が亡くなられた場合や、サラリーマンの方が亡くなられた場合には、相続税の対象として死亡退職金が出てくるケースがあります。これらの税務の取り扱いは、意外と判断が難しいものが多くあります。申告の際には十分にお気を付けください。