こんにちは。 京都の相続専門税理士、アーム税理士法人です。
『贈与税とは!?』について。
何かをもらうと「贈与税がかかるよ」なんてことを聞かれた方も多いかと思いますが、そもそも贈与税の仕組みや課税方法はどうなっているのか。きちんと理解されている方は少ないのではないでしょうか。そもそも『贈与』とは何なのか。これをきちんと理解していないと贈与税についても誤った認識をしてしまう恐れがあります。
今回は『贈与』と『贈与税』について順番に確認していきましょう。
1.贈与とは
『贈与』の定義はというと、
「当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」
です。
非常に堅苦しい言い方ですが、これは民法に規定されています。(民法549条)
この定義からわかる大事なポイントは以下の3つです。
①無償(タダ)であること
②与える意思を表示していること
③もらう人が受諾(もらう意思を表示)していること
つまり、あげる人・もらう人の両方がタダであげた・タダでもらったという認識をしていないと『贈与』は成立しないということになります。
よくある勘違いとして、契約書が無いとダメという方がおられますが、書面によらない贈与も有効です。(口頭でも贈与は成立します。)
例えば、お金持ちの方がクラブのお姉さんに車を買ってあげたりマンションを買ってあげたりなんて話をよく聞きますが、こういうケースは書面なんて絶対交わさないですからね。それでも、立派に『贈与』として成立します。
ただし、第三者にその贈与があったことを立証するには、口頭だけでは難しい面がありますので、書面で贈与契約をすることが多いです。(上記ケースではバレたくない人がほとんどでしょうが。)
この贈与の定義をきちんと理解していないと後々トラブルになるのが、『名義預金』です。
これは親族間で行われる贈与が上記要件を満たしていないため『名義預金』と言われてしまうトラブルです。例えば、お爺さんが孫のために毎年100万円ずつ10年間かけてあげていったとします。そのあげる方法が、お爺さん名義の口座から100万円を引き出して孫名義の預金口座へ預け入れるというような場合。この孫名義の預金口座が贈与専用の口座で、お爺さんが孫に代わって口座開設の手続きをしていたとしたら、完全に『名義預金』と言われてしまいます。
また、このようなケースでは孫はこの預金の存在を知らないことが多いですからね。贈与の要件である『もらった』という認識ができていないわけです。だから孫の名義であってもお爺さんの財産と判断されてしまう『名義預金』となってしまうのです。
この『名義預金』は贈与税・相続税の話だけではなく『遺産分割』においても大きく影響してきます。
もし敵対している相続人がいたとしたら・・・
「孫名義の預金はお爺さんの財産だから、遺産分割協議の対象だ!」と言ってくるでしょう。
せっかくお爺さんが孫のために積み立ててくれていたのに、孫のものにはならずに相続人間で分配されてしまうのです。孫からしたら自分の名義なのに何で?という気持ちになってしまいますね。
従って、『生前贈与』を検討するうえでは、正しい贈与の方法を知ったうえで行っていくことが必須になります。
2.贈与税の課税方法
『贈与』が成立していれば『贈与税』の課税対象となります。贈与税が課税されるのは財産をもらった人です。タダで財産をもらって得をしたので、その分について税を課しますという仕組みですね。
この『贈与税』には、2つの課税方法があります。
【暦年課税贈与】と【相続時精算課税贈与】の2つです。
通常は【暦年課税贈与】になりますが、親または祖父母からの贈与については一定の要件を満たせば【相続時精算課税贈与】を選択することができます。
その内容について順番にみていきましょう。
3.暦年課税贈与
暦年課税贈与は、財産をもらった人が1年間でもらった財産の合計額に対して贈与税を計算して申告する仕組みです。こちらは所得税の確定申告と同様に「申告納税方式」となっていますので、もらった人自身が税務署へ申告して納税をすることになります。
1年間というのは毎年1月1日~12月31日が区切りとなります。
もらった財産の合計というのは、一人からではなく複数人からもらった場合も、そのすべてを合計します。
その合計額から基礎控除を差し引いたものが贈与税の課税対象となります。基礎控除とは非課税枠のことで年間110万円です。(ちなみに20年前は60万円でしたが変更されました。)
つまり1年間でもらった財産の合計が110万円以下であれば贈与税はかかりませんので、申告も必要ありません。110万円を超える財産をもらった場合の贈与税の計算は以下のとおりです。
『(もらった財産の合計‐110万円)× 税率 』
税率は以下のとおりとなっています。
①親や祖父母から20歳以上の子・孫への贈与の場合(特例税率)
110万円差引後の金額 税率 控除額
200万円以下 10% -
200万円超400万円以下 15% 10万円
400万円超600万円以下 20% 30万円
600万円超1000万円以下 30% 90万円
1000万円超1500万円以下 40% 190万円
1500万円超3000万円以下 45% 265万円
3000万円超4500万円以下 50% 415万円
4500万円超 55% 640万円
②①以外の場合(一般税率)
110万円差引後の金額 税率 控除額
200万円以下 10% -
200万円超300万円以下 15% 10万円
300万円超400万円以下 20% 25万円
400万円超600万円以下 30% 65万円
600万円超1000万円以下 40% 125万円
1000万円超1500万円以下 45% 175万円
1500万円超3000万円以下 50% 250万円
3000万円超 55% 400万円
財産をあげる人・もらう人の関係性によって税率が変わります。一つ計算例を示しますと
〔父から20歳以上の子へ1,000万円を贈与した場合〕
①1,000万円-110万円=890万円
②890万円を【特例税率】に当てはめて
890万円 × 30% - 90万円 = 177万円 となります。
このように計算を行い、贈与税の申告書を作成して税務署へ申告し納税を行います。
申告・納付期限は所得税の確定申告と同様に3/15となります。(R3年中にもらった財産についての贈与税の申告期限はR4.3.15)
4.相続時精算課税贈与
次に相続時精算課税贈与ですが、これは2,500万円まで贈与税を非課税にするという制度です。
ただし、適用要件があります。
【財産をもらう人の要件】
①財産をあげる人の直系卑属(子や孫)であること
②財産をもらう年の1月1日において20歳以上であること
です。
この要件を満たす方が、相続時精算課税贈与を選択するとその方から受けた贈与については2,500万円まで非課税となります。とってもお得ですね。でも、非課税となるのはちゃんと理由があるのです。それは、その名前のとおり「相続の時に精算して課税します」ということです。
どういうことかというと、財産をあげた人が死亡した場合には、その方の相続税の計算をする際に相続時精算課税贈与であげた財産をその方の財産額に加算して相続税を計算するということです。つまり、贈与税を非課税にする代わりに将来の相続税の対象とするということです。
なので、相続税の節税効果というものは基本的にはありません。
また、この制度を利用した場合には注意点があります。
それは、一度選択すると以降は【暦年課税贈与】が出来ないということです。
つまり「基礎控除110万円」が使えなくなるということになります。
従って、毎年少しずつ110万円の非課税メリットを享受したい場合には相続時精算課税贈与はオススメしません。
この相続時精算課税贈与ですが、非課税枠2,500万円を超える贈与を行った場合の税率は一律20%となります。例えば、3,500万円の贈与を行い相続時精算課税贈与を選択した場合は、
(3,500万円 - 2,500万円) × 20% = 200万円
の贈与税が発生します。
この場合でも、3,500万円については相続が起きた時には相続財産に加算して相続税を計算することになりますが、既に支払っている贈与税200万円については相続税から控除して計算します。これが相続時に精算する(先に払った贈与税の精算)という意味合いになります。
相続時精算課税贈与についても、暦年課税贈与と同様に3/15が申告・納付期限となります。相続時精算課税贈与は、贈与税の申告書を提出する際に「相続時精算課税選択届出書」を併せて提出することで選択することができます。
5.贈与財産の評価額
贈与する財産は現金ですることが多いですが、現金以外でも贈与をすることは可能です。例えば、土地、建物、株式、車 などです。
では、これらの財産を贈与した場合の贈与税の計算における評価額はどのように計算をすればいいのか?
これは、相続税を計算する際の評価額と同じになります。
例えば、土地であれば路線価などを基に計算しますし、建物であれば固定資産税評価額を基に計算します。相続が起きるのは予測がなかなか難しいですが、贈与であればいつでも出来るので、将来的に値上がりが期待できそうなものがあれば、贈与で早めに移しておくといった対策も有効ですね。
6.贈与税の非課税
きちんと『贈与』が成立したものであれば贈与税の課税対象となりますが、贈与税がかからないものもあります。いくつか見ていきましょう。
①法人からの贈与により取得した財産・・・贈与税は個人間の贈与に対して課税するものですので、法人からの贈与については贈与税はかかりません。ただし、一時所得等として「所得税」の対象となります。
②扶養義務者から受けた生活費や教育費に充てるためのもの・・・ここでいう扶養義務者とは夫婦や親子、兄弟姉妹などを言い、同居しているかどうかなどは関係ありません。別で暮らしている祖父母が孫の学費を負担することも問題ありません。注意点として、その都度直接生活費・教育費に充てていることが要件となりますので、学費であれば負担してあげる人が直接学校へ払ってあげる方法が確実です。
③贈与税の非課税の特例を利用した贈与財産(住宅取得資金、教育資金、結婚・子育て資金 など)
④個人から受ける香典・花輪代、年末年始の贈答、祝物、見舞いなどのための金品で社会通念上相当と認められるもの
⑤相続があった年に被相続人から贈与を受けた財産(その被相続人から相続または遺贈により財産を取得している場合に限る)
まとめ
贈与税は申告納税方式であるが故に、贈与が行われても贈与税の申告がされていないというケースは多々あります。不動産の場合は登記によって贈与の実態が公に出ますので税務署もすぐに気づくのですが、現金贈与ははっきり言ってわかりません。基本的に、贈与税が問題になるのは相続が起きた時です。相続が発生して相続税申告をすると、税務署は何年も遡って調査を行います。その際に、過去の贈与が浮き彫りになり、贈与税の無申告を指摘されたり、名義預金のトラブルが発生したりします。相続対策で生前贈与を考えることは非常に有効なことですが、正しく行わないと無意味に終わってしまうこともあります。『贈与』というものをしっかり理解して実行することが大切です。
令和2年末に発表された令和3年度の税制改正大綱にて、贈与税の課税制度のあり方を見直すといったことが書かれています。これは、「生前の贈与についても全て相続税の対象とする」という考えによるものです。諸外国においてはこのような方針の課税方式がされているところもあり、日本も同様に行っていく方針のようです。この改正が来年あるのか、段階的に行われていくのか詳細はわかりませんが、どこかのタイミングで110万円の非課税(基礎控除)のメリットは無くなるものと思われます。相続対策にて生前贈与を実行されている方については、今後の改正の動向には十分に注意しましょう。