こんにちは。 京都の相続専門税理士、アーム税理士法人です。
『生命保険金の課税関係』について。
お亡くなりになられた方が生命保険に加入していた場合、死亡を原因として保険金を受け取るケースがあります。この死亡保険金は相続財産となるのかどうか。
結論から申し上げますと、『どちらともいえない』です。
一般的に『相続財産』という言葉には2つの解釈があります。1つ目は『相続税の対象』となるかどうかという意味で、もう一つは『民法上の相続財産』であるかどうかです。
死亡保険金については、『相続税の対象』となる(保険料の負担状況によります。)が、『民法上の相続財産』ではないため、『どちらともいえない』という結論になるのです。
・・・ややこしいことを言っていますが、順番に確認していきましょう。
1.生命保険金の課税関係
まずは、生命保険金を受け取った場合の課税関係を見ていきましょう。
生命保険金には色々な種類のものがあります。
①死亡を原因として受け取る死亡保険金
②養老保険などで、保険期間満了時に生存していた場合に受け取る満期保険金
③個人年金保険などで、年金受取が開始した場合に受け取る個人年金
④医療保険などで、入院や手術などを原因として受け取る入院・手術保険金 などなど
保険の商品も多様化していくなかで、保障内容がどんどん複雑になっていったりしていますが、税務の基本的な考え方としては、「①誰が保険料を負担して、②誰が保険金を受け取ったか」という2点に着目して課税関係を定めています。
簡単にまとめると、
①保険料負担者と保険金受取人が同一の場合 ➡ 保険金受取人に対する所得税課税
②保険料負担者と保険金受取人が違う場合 ➡ 保険金受取人に対する相続税または贈与税課税
となります。
②の相続税になるか贈与税になるかは、保険料負担者が死亡したことにより受け取った場合は相続税、それ以外は贈与税となります。
ここで気を付けたいのは、『契約者』が誰であろうと関係ないということです。基本的には契約者が保険料を負担することが一般的ですが、契約者以外の人が保険料を負担しているケースもよく見受けられます。このように契約者という形式的なもので判断すると、課税の公平性が崩れてしまうため、実際のお金の動きである「保険料負担者」に着目して課税しています。
高額な保険金を受け取った場合に贈与税課税の対象となるとかなりの税負担が発生しますので、保険契約の際の受取人の設定や保険料の負担者には注意が必要です。
2.相続税の対象となる生命保険金
次に相続税の対象となる場合の生命保険金についてです。
保険金を受け取った場合に相続税の課税対象となるケースというのは、「保険料を負担していた人が死亡したことにより保険金受取人が死亡保険金を受け取った場合」ですね。
前述したように、この保険金は『相続対象であるが相続財産にあらず』という位置づけでした。
従って、相続税の税務の世界では『みなし相続財産』という言い方をします。相続財産ではないが相続税の対象であるため相続財産とみなしますということですね。
この場合、受け取った保険金が相続税の課税対象となります。(保険金とともに分配金などの剰余金等の受取がある場合は、それらを含みます。)
受け取った保険金を他の相続財産と合算したうえで「基礎控除」と比較し、相続税が発生するかどうかを計算していくことになります。
ただし、生命保険金(死亡保険金)には一定額まで非課税という恩恵があります。
その一定額とは、
『500万円 × 法定相続人の数 = 非課税額』 です。
この場合の法定相続人の数は、相続放棄があった場合は放棄がないものとして計算した数で、養子については一定の制限により計算した数となります。
(例)相続人1人 ➡ 500万円 相続人2人 ➡ 1,000万円 相続人3人 ➡ 1,500万円
相続人3人(うち1人が放棄) ➡ 1,500万円
相続人4人(実子2人・養子2人) ➡ 1,500万円
従って、受け取った死亡保険金が非課税の範囲内であれば、その保険金には相続税はかからないということになります。
(受取人1人につき500万円ずつしか使えないと勘違いしている方が多いですが、相続人3人で受取人が1人であっても、その受取人お一人で1,500万円の非課税を適用することができます。)
3.非課税対象とならない生命保険金
相続税の対象となる生命保険金には一定の非課税があるとお伝えしましたが、実は内容によってはこの非課税の対象とならない生命保険金もあります。
例えば、
◆入院、手術などを原因として受け取る保険金で死亡後に受け取ったもの
これは本来の受取人である被相続人(そうでない場合もあります。)が、保険金の請求をせずに亡くなったため、相続人が被相続人に代わって死亡後に請求して受け取ったいわゆる未収金であり、死亡を原因として支払われた保険金ではないため
◆被相続人が個人年金保険による年金を受け取り続けていたが、全額を受け取る前に死亡したため年金の残額を相続人(後継年金受取人)が受け取ったもの
これは、支払が確定していた年金の残額を被相続人に代わって相続人(後継年金受取人)が受け取る「年金受給権」であり、死亡を原因として支払われた保険金ではないため
などがあります。
これらを理解していないと、相続税の計算を間違えてしまうことになりますので注意が必要です。
4.民法上の考え方
生命保険金(死亡保険金)は『民法上の相続財産』とはならないと申し上げましたが、具体的にどういうことかと申し上げると、【生命保険金は受取人固有の財産】という考え方です。
つまり、生命保険金(死亡保険金)は亡くなった方からもらったものではなく、もともと受取人自身の財産ですよということになります。
これは何を意味するか??
大きな意味としては、他の相続人はその受取について何の文句も言えないということになります。
例えば、遺言で多額の財産をもらっている相続人がいる場合は、その相続人に対して遺留分の請求ができたりします。また、生前のうちに多額の贈与(特別受益)を受けている相続人がいる場合は、遺産分割の際にはその贈与分を考慮して自分の相続分を主張することができます。
しかし、生命保険金(死亡保険金)は民法上は受取人固有の財産という考え方になるため、遺産分割や遺留分の対象にはなりません。これが相続における生命保険金の最大の特徴です。
ただし、度を超えた生命保険金(例えば財産の半分以上が生命保険金になっている など)がある場合で意図的に特定の相続人が有利となるようなケースでは、『特別受益』と認定されることもあります。
まとめ
生命保険金の課税関係や相続における取り扱い・考え方を説明いたしました。
将来的に相続を控えている方(全員そうですが・・。)が、『相続対策』をそろそろしないとと考える場合がありますが、実は生命保険と相続対策は非常に相性がいいのです。
相続対策の大きな柱として、
①遺産分割対策(争族対策)
②納税資金対策
③相続税の節税対策
の3つがあげられます。
生命保険はこれら3つの対策すべてに効果を発揮します。
まず、生命保険は受取人を指定することで遺言代わりになること、生命保険は遺産分割・遺留分の対象外であることから①の対策として有効です。
次に、生命保険で死亡後に確実に受け取ることができるお金を準備することで、将来の相続税の納税資金を確保することができるため②の対策として有効です。
最後に、生命保険金は一定額まで相続税の非課税が適用となるため③の対策として有効です。
以上のとおり、相続対策で生命保険を使わないのははっきり言って勿体ないです。生命保険を毛嫌いして一切考えてこなかった方は、一度検討されてみてはいかがでしょうか。