相続税における『扶養義務者』とは!?

こんにちは。 京都の相続専門税理士、アーム税理士法人です。

今回は『相続税における「扶養義務者」とは!?』について。

扶養義務者というと、一般的には父親・母親を想像しますよね。あるいは、両親がいない方の場合には祖父母やご兄弟でしょうか。要は、養ってくれている人という感覚ですよね。

この『扶養』という言葉は税法の規定の中でたくさん登場します。

一番身近で有名なものは所得税における『扶養控除』ですね。扶養控除が使えなくなるからアルバイト収入は年間103万円までにしなさいと親から言われたことがある方は多いのではないでしょうか。

この『扶養』という言葉ですが、税法の規定によって要件や解釈が違います。今回は相続税における『扶養義務者』の考え方について説明します。

 

1.定義

相続税法上における『扶養義務者』の定義は相続税法基本通達1の2-1において以下のように定義されています。

「扶養義務者」とは、配偶者並びに民法(明治29年法律第89号)第877条((扶養義務者))の規定による直系血族及び兄弟姉妹並びに家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となった三親等内の親族をいうのであるが、これらの者のほか三親等内の親族で生計を一にする者については、家庭裁判所の審判がない場合であってもこれに該当するものとして取り扱うものとする。
  なお、上記扶養義務者に該当するかどうかの判定は、相続税にあっては相続開始の時、贈与税にあっては贈与の時の状況によることに留意する。

すごくややこしい書き方ですね。

これらをまとめると扶養義務者となるのは以下の方たちです。

①配偶者

②直系血族

③兄弟姉妹

④家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となった三親等内の親族

⑤三親等内の親族で生計を一にする者

上記のうち②~④は民法877条に定める扶養義務者です。

つまり、相続税法においては民法で定めている扶養義務者の範囲よりも広い範囲を扶養義務者としています。

ここで大事なポイントは「同居」や「生計一」という要件が⑤以外には入っていないことです。

このポイントについては後ほど解説していきます。

 

2.扶養義務とは?

少し話がそれますが、そもそも扶養義務とはどういった意味でしょうか。

色々な解があるとは思いますが一般的には「自力で生活を維持することが困難な者の生活維持のために、必要な支援・援助をする親族間の義務」といった感じでしょうか。

つまりは近親者で困っている方がいればちゃんと支援しないとダメですよということですね。

これを基に「扶養義務者」を考えると、実際に扶養しているかどうかではなく、困った時には援助をする義務がある人と言い換えることができます。

 

3.相続税における関連規定

相続税の計算上、この扶養義務者が関係するのは『未成年者控除』・『障害者控除』です。

≪未成年者控除≫

相続人が未成年である場合、【(20歳‐相続開始時の年齢)× 10万円】で計算した金額を相続税から控除することが出来る。なお、控除しきれない金額がある場合は扶養義務者の相続税から控除することが出来る。

≪障害者控除≫

相続人が障害者である場合、以下のいずれかにより計算した金額を相続税から控除することが出来る。なお、控除しきれない金額がある場合は扶養義務者の相続税から控除することが出来る。

一般障害者・・・【(85歳‐相続開始時の年齢)× 10万円】

特別障害者・・・【(85歳‐相続開始時の年齢)×20万円】

つまり、未成年者・障害者ら本人の相続税以上に控除額がある場合、その未成年者・障害者らの扶養義務者の相続税から引くことが出来ます。

例えば、父が死亡して相続人が長男・二男である場合に長男が障害者である時、長男の相続税が500万円、二男の相続税が500万円、長男の障害者控除が600万円だったとすると、

長男の納付額・・・500万円-500万円 [障害者控除] =0円

二男の納付額・・・500万円-(600万円-500万円)[障害者控除の残額]=400万円

という計算になります。

この計算は、二男が長男を実際に養っていなくても適用が可能となります。なぜなら、扶養義務者の定義にも未成年者控除・障害者控除の規定にもその要件が定められていないからです。

このことを知らずに「同居していないからダメ」とか「仕送りで養っていないからダメ」とか感覚で決めつけてしまうと思わぬ過大納付が発生してしまいます。

 

4.贈与税における関連規定

おまけで贈与税に関する関連規定もお話し致します。

贈与税においても『扶養義務者』が関連する規定がいくつかありますが、その中でも「贈与税の非課税財産」として規定されている「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」というものがあります。

これは、生活費・教育費を扶養義務者間で渡しても、社会通念上の一般的な金額(実際に使っている金額)であれば贈与にはならないということを意味しています。

この場合も、同居や生計一は要件とはなっていませんので、例えば離れて暮らす祖父母が孫のために学費を負担するという行為も非課税扱いになります。この場合には、後々の税務トラブルを避けるために祖父母が直接学校等に教育費を支払ってあげる方法がよいかと思います。

 

まとめ

扶養義務者の解釈を間違うと税務判断を誤ってしまう恐れがあります。

一つの言葉でも各法律によって解釈や要件が違うことは多々あります。感覚や何となくで判断していると過大納税につながったり、税務署から指摘されたりすることがありますので、相続税における言葉の一つ一つの定義はきちんと理解したうえで相続税の計算を行うようにしましょう。